トマトフライ

 午前三時に鳴った電話は、朝起きると夢みたいに思えた。けれど携帯電話にはっきりと残る通話の跡が本物で、夢が夢じゃなかったと告げた。次第に記憶もはっきりしてくる。二言三言交わした会話。
 私の上司は夜中に誰かに電話するなんて常識の無い人ではない。時間感覚なんて忘れてしまうような人ではないのに。どうして昨日は、あんな当たり前みたいな声で私に電話をくれたんだろう。
「ねぇおかしいのよ、亮ちゃん」
 当人に聞く勇気なんてもちろん無くて、いつもどおり親友に相談を持ちかける。
「昨日というか今日の午前三時、とまこ先輩から電話が掛かってきて」
 午前三時、の辺りで親友の表情がそれとなく変わったのを私は見落とさない。最近変化し続けている親友と先輩の関係に、すっかり敏くなってしまった。
「仕事の話っぽかったけども、なんか様子がおかしいと思うのだけど」
 変なのは先輩だけじゃなくて親友の方もみたいだ。私の知らないところで、私の大事な人たちが変わっていってしまう。嫌とかじゃなくて、単純に、寂しいのよ。どう言ったものかと考えている親友が、遠い。仲間はずれの孤独感。変わらないで欲しいのじゃなく、変わるなら私も巻き込んで欲しい。疎外しないで、どうか、どうか。言い訳を思いついた顔の親友を、ため息でさえぎる。
「ううん、いいわ、仕事しましょ。先輩に怒られちゃう」
 もしかしたらあの電話は本当は親友に掛けられたのかもしれないと、ふと、思った。