もうこたつは仕舞った方が良いかも知れない、と思い始めた三月の終わり。先輩が初めて私の部屋に来た。そして今私は下半身何も履かないでこたつに入っている。
二文目と三文目の間に断絶があるようだがちゃんと文脈は繋がっているので大丈夫だ。こたつを見た先輩が、「もう暑いんじゃないかしら、こたつは」と言ったので、「部屋の中では薄着なんで逆にあったかいの気持ちいいですよ」と答えたところ、「じゃあ脱いで入りなさい」という事態だ。至極まともである。
さて、先輩は右手で器用に本をめくっている。私の部屋に来たのは、この分厚い本を読む為なので当然である。さりとて先輩に構ってもらえないといって私が嘆いたりする愚かな事態は起こらない。なぜなら先輩は黙って左手で私を構ってくれているからだ。主に、こたつの中に手を入れて、私の下半身を。私があぐらをかいて座るのを先輩は好む。一番構いやすいからだと言う。喜んでもらえるなら私は何だって良い。多少お行儀が悪くても私はあぐらを組む。分厚い本のページを繰るのと同様に、先輩の細い指が私の腿を這う。爪が表皮を撫でるのに、産毛がいちいち反応する。私の手は何もしない。唇だってはしたなくおしゃべりしたりしない。先輩の邪魔にならないように、ただじっとしているだけだ。もし命じられればなんだってするけれど。お茶を出したり、嬌声をあげたり、なんだって。お望みならばなんでもするし、望まれないなら何もしない。だけれど、邪魔したくないのに、抑えられないものもある。
「あら、指が湿ってきたわ」
満足そうに笑って、先輩はまたページを繰る。下半身がふるえる。難しい本なのに、読む速度はひどく速い。早く読み終われば良いのに。そうしたら先輩は本なんて構わずに両手とも私だけが占有できるのに。探している文章が見つからないのか、先輩の指がトントン、と細かなリズムを刻む。私に触れている左指で。腿から段々と足の付け根に近づいていく指に、私はぎゅっと目を瞑って身を縮ませる。暖かいこたつと先輩の体温で、少しずつ少しずつ私の理性はとろけて行く。閉じているまぶたには真っ暗な中にちかちかと錯覚が写って、それはもう残る感覚を敏感にする。ぐらぐらの脳に、弱い部分を、爪先が掠る。
「テレビ見ながら作業、とか時々するんだけどね」
不意に先輩が話し始めた。その間も指は止まらない。器用な人だ。
「恋人の喘ぎ声聞きながらってのも良いものかもね」
それと同時に、一番理性に歯止めが利かない部分に、指が触れる。わざとだ。けれども抑えなくても良いと言われたようなもので、私は堪えないで声をあげようと、むしろ堪えきれなくなった瞬間。
「あ、あった」
呟いたのは先輩だった。探していた文章を見つけたらしい。熱を起こさせる、指が離れる。
「コンビニ行ってコピーしてくるわ。ちょっと待っててね」
一人でしちゃ駄目よ、なんて笑って、ああ、ああ、酷い人!