つめ

「こんな長いままで入れるつもり?」
 寝る、の意味がセックスを指すとも知らなかった少女に、何を期待したのだろうと女はため息を吐いた。少女に柔らかく乗っていた体重が離れる。キスの時に舌を絡ませる、唾液の交じり合うことから教えてもらっていた少女は、女の落胆した表情に敏感に反応した。
「わ、私、何か……?」
 おそらく大事に育てられた少女は家事もしたことがなく、もちろん自分に指を入れたこともないのだろう。だから長い爪が中を傷つけるなんて基本さえ知らない。
「良いのよ」
 女は笑ってごまかして、雑多な経験の代わりに手入れを行き届かせた髪や胸、鎖骨の窪みの決め細やかな肌を吸う。曖昧な感覚に一々漏らす声に満足しながら、腕を伝って肘から手の甲まで、熱くなった身体を唾液で冷やすように、ゆっくりと舐めていく。そして舌は震える指先に辿り着く、長い爪。
 まじまじと見つめると、肌と同様に手間隙かけて整えられたと分かる、いかにも男を誘いそうな、そんな爪。憎らしいわ、と自分の中の感情に気づいて女は苦笑し、また少女を怯えさせた。その顔も、また誘うようで、愛おしくもあり悔しくもある。
「ごめんなさいね」
 何をするかは言わないままで、震える指先を口に含んだ。右手の、人差し指。たっぷりと舐めて、そうして、少女が安心して身を緩める、その隙に、歯を立てた。
「……あっ!?」
 すぐには何をされているか理解できなかった少女が、気づいた。しかしお構いなしで女は、爪の成分はたんぱく質だったかしら、などと考えつつ、その長い爪を、かち、かち、と唇で挟みながら歯で短く整えていく。長く整った四指に混じって、不恰好ながら短くなった、人差し指。
「これで入れても痛くないわね?」
 爪の残骸を、たんぱく質を飲み込んで、女は笑った。