双子

 ぽちゃん。水に、赤い亀裂が走る。落ちた血。経血。彼女と同じ遺伝子配列で出来た血。私はそれをいとも容易く落としてしまう。この血を舐めれば彼女の味がするのだろうか。
 三ヶ月経てば身体の細胞は全て入れ替わるのだという。三ヶ月前に単身上京した双子の姉。彼女は今何を食べてどんな空気を吸ってどこの水を飲んで暮らしているのだろう。もう、彼女と私の同じ細胞は無いのだろうか。昔なら同じ物を食べて同じ空気を吸って同じ水を飲んで生きていたのに、そうすれば細胞全て同じで居られたのに。今同じなのは遺伝子配列、身体を構成する基礎だけだ。その上に積み重なったさまざまな要素は、離れている内にどんどん変わっていってしまう。異物が、乗っていってしまう。
 この人生の内の取り戻せない三ヵ月。その後どれだけ一緒に居て一緒に呼吸しても私たちの身体はもう同じではない。三ヶ月分の隔たりが、大きい。ひとつ食事をするたびに、ひとつ息を吸うたびに、私は彼女と違えた身体に生まれたことを知る。
 どこまでも一緒だったのに。
 トイレに落ちた血を、流せないでじっと見つめる。赤い血の、三ヶ月で入れ替わってしまった限りなく彼女と異なった細胞の塊。
 もう私はあなたの子を産めないね。三ヶ月前ならば、私の子はあなたの子で、あなたの子は私の子であったのに。この身体で産んだのなら、もう私の子は私の子だ。あなたの子はあなただけの子なのだ。
 精神が交じり合えないなら、せめて身体だけは同じでいたかった。