日食

 チャイムが鳴ると、少女たちのざわめきが静まった。女子校の横の、小さなビル。そろそろ私たちも仕事に戻らないといけない。電線より低いビルの屋上で、空を見る。ケータイに映したテレビ番組が、南の島の様子を報道している。
「晴れればよかったのにね」
 サンゴの海に浮かべた小船は、雲の切れ間を探して右往左往。日本中で、今、太陽を探して目を泳がせている。隣の彼女も、恨めしそうに雲を睨んでいる。せっかく、直線状に全てが揃うのに、と。
 小さなモニターの中で天文学者が星が起こす奇跡のような必然を熱く熱く語っている。空を見上げる多くの人々は、非日常に置いて行かれないように、空を見る。それぞれの思惑で、三つの天体が重なる時を有する。
「でも、欠けを注目するなんて、皮肉だね」
 テレビにも晴れない空にも飽きた僕が観念論を語ると、彼女は目線を空に向けたまま、返事をする。
「常に当たり前にあるものなんて無いって、確認したいのよ」
 太陽だって、あなたにとっての私もよ、と彼女は嘯く。風が吹いて、一瞬、さらに雲が濃くなって、その後。
「あっ」
 雲の切れ間、小さなテレビモニターが騒がしい、明るくなる街、向こうの方で少女たちの歓声。分厚い梅雨空の一時の合間。
 僕たちは、欠けた太陽を見ていた。