クリスマス!

 数年前に発明された青色発光ダイオードに溢れて照らされた街はカップルで溢れている。そうして私たちもまた女二人ながらカップルで歩いている。
「カップルって死語だったりしないの、それより日本人て可愛いよね発明品をこんなに飾り付けて青色発光ダイオード大好きです私たちなんてサンタクロース信じてぴょんぴょん飛び跳ねる子供みたい、美しいのは分かるけど流石に私は飽きたかなぁ、ねぇあなたはどう?」
「美しければ良いんじゃないのクリスマスだし」
 クリスマス、なんでもかんでも宗教もごっちゃに受け入れてしまう日本国の行事の醍醐味! 素敵過ぎる年末の楽しみに浮かれるのも良いだろう、特に二人でいられるならなおさら。青色の街は寒くて、手は冷たくなって指がかじかむほど。息を吹きかけても白く染まるばかり。
 予約したレストラン、なんて語句さえもはしゃいで感じられる年末。クリスマスの前は忘年会なんて飲み歩いたって言うのに。とにかく向かうのは予約したレストラン。
「なんだっけ、今日の」
「チーズフォンデュ?」
「そうそう、あとケーキが丸太の奴、ブッシュドノエル? そいえば大統領靴投げられてネットでゲームとか出来てたけどいつ退任?」
「年明けじゃないの、退職金いくらだろうね」
 とりとめも無い話に花を咲かせながら、冬に咲く花はこれとポインセチアぐらいだろう、きらきらの街を胸を弾ませて闊歩。
 ご飯食べてケーキ食べて家に帰ったら何をしようね、恋人よ。一晩中いちゃついたり世間一般のラブラブだか熱々だかの普通のカップルみたく仲良くしようか。
「そいえばこたつ出したのよね、あと湯たんぽ」
「最近忙しくて外でばっか会ってたもんね、いいねおこたにゆたんぽ、日本の冬っぽい」
 青色の街で、足も地に付かず浮付き立って、仕方ない今日はクリスマスで、君が隣にいるのだから。君も私も女だけれど普通の男と女の恋人みたく今日ぐらい振舞ったって罰は当らないでしょう、だって罰を与えるのは仏様でイエスキリストじゃないでしょう、ねぇ。レストランに着いたらワインをあけて乾杯しよう、チーズフォンデュに火傷しない様に、ブッシュドノエルのクリームが頬に付いたら取ってあげる、アルコールで火照った身体に外の寒さが染みるなら寄り添って帰ろう、だって今日はクリスマスだから。私は足を止めて、切り出した。
「ね、手繋いでも良い?」
 普通の恋人じゃない私たちでも、今日ぐらいは許されるはずだ、浮かれた恋人の格好を装ったって。青色の街はそれぐらい許してくれるでしょう。冷たい指先がかじかむ前に、温めてあげる、温めて欲しい、サンタクロースも来ない年だけど信じるぐらいは自由だし、ほら。
「ねぇ、手、繋ごう?」
 不安と寒さに震えた声に、君が立ち止まって、振り返って、その顔に一瞬私は怯えるのだけど、レストランまであと五メートルも無いけどね、笑って、コートのポケットの中に私の右手を連れ込んでくれる、右手から伝わった熱が全身に回って、ああクリスマス!
 青色の街は寒そうだけれどひどく温かなのは八百万なんて全部の神様を受け入れてしまう日本人のおおらかさのせい、もしくは君と歩くこの時間の幸せさ! 今日だけは普通の恋人みたく一晩中いちゃついたりラブラブだの熱々だの可愛らしいことをしよう。