乳房とぶたまん

 冷蔵庫を開けると、ぶたまんが消えていた。二人で食べようと、二個も買い置きしていたのに。年下の彼女と喧嘩をして、機嫌を損ねてしまったから食べ物で解決しようとしたのだが、もしかすると先に食べられてしまったのかもしれない。
「二個も食べるかなぁ…」
 彼女は機嫌が悪くなるとすぐ部屋に引きこもってしまう。鍵を掛けられてしまっては入ることも出来ない。
 コンコンコン、ドアをノック。開けろ、と言っても彼女からの返事は無い。
「あーけーろってば」
 声も物音もしないので、しばらく待つことにした。ドアにもたれて、座り込んで。しばらく待っていると、足音が聞こえて、こちらに向かってくる気配。とさ、という軽い音、ドアの反対側に彼女も凭れこんだのだろう。
「君さぁ、こういうのが好みな訳?」
 静かな怒声とぐしゃ、と紙のつぶれる音。おそらく、先ほど彼女に取り上げられた雑誌。他の記事が読みたくて買ったのに、巨乳特集、なんてページを興味本位で覗いている所をちょうど見つけられて、喧嘩。
「別に好みじゃないよ」
 彼女が胸が無いのが悩みだとか胸だのなんだのが嫌いなのは知っていたが、それぐらいで引きこもるほど怒らなくても良いじゃないか。
「雑誌ぐらいで文句言わないでよ」
 不意に出た文句、ドアの向こうで、だん、立ち上がる音と共にドアが開いた。内開きのドアに凭れかかっていた所為で、盛大に向こう側に転ぶ。痛い、と怒鳴ろうとして、不覚、彼女の姿に毒気を抜かれてしまった。
「どうしたの、それ」
「君が・・・こんなもん読んでるからっ」
 胸部が膨らんだTシャツ、入っているのは明らかに二個のぶたまん。馬鹿みたいな格好なのに、やけに涙目で真剣な彼女に、堪えきれずに大笑いすると余計に不機嫌になってまたドアの向こうに消えてしまった。