girl と 少女

「だから駅までまっすぐ、ごー、ごぉすとれーとだってば!」
 街角の花屋の前にすごい金髪碧眼フランス人形みたいな、なんて陳腐な比喩も使いたくなるぐらいの美少女が立っていたもので、ついつい見とれてしまった私は、にこ、なんて微笑まれて、その頬の緩み方がもう黄金比ばっちりだった所為でこちらの頬も緩みまくりで、たたたっとヒールに包まれた小さな足がこちらに駆けてくるのにキュンキュンした上にドキドキして、固まってる間にその美少女は傍に寄ってきて、"Excuse me?"なんて綺麗な発音で赤い唇が白い肌に綺麗過ぎて、英語の成績万年2の私は美少女の美しさ以外の理由で固まってしまった。硬直する姿勢に気づいたのか気づかないのか、もう羽が落ちるみたいな声で"How can I get to the station?"尋ねる彼女は細くて色が透き通るみたいで、そーりーなんて逃げようなんて考えても後の祭り、捕らわれちゃったんだもん、心とかそういうものが。だから必死で中学の教科書を思い出して、辛うじて聞けたすていしょん、それだけを頼りにごぉすとれーと。まっすぐ行くだけの道をどうして伝えられないのか。
 困る私に、彼女の表情も曇ってしまう。駄目、だめ、曇らせちゃ駄目よ、ああ、ふわふわの髪がなびいてる。綺麗なのに、ああ、これは一目ぼれみたいに可愛いのに。駅までの道、10分もかからない、まっすぐの向こう。ていうか、私もまっすぐの道を通って駅まで行って帰るんじゃない!
「ぷりーず、うぃずみー!」
 多分文法間違ってるけど、言葉が伝わらないなら行動、そうぼでぃらんげーじなんて便利な言葉もあるじゃない。彼女の手を掴むと、あまりに細くて、体温が低くて、滑りぬけそうで、少しだけ力をこめて握り直した。一瞬驚いた表情の彼女も、すぐにヒールを響かせて付いてくる。冷たい手が、少しだけ熱くなる。歩幅の小さい彼女のちょこちょこ歩きに合わせて私も歩幅を小さく歩く。
 駅までの道、今日は15分はかかるだろう。